「Viet Nam 日誌」
ふくちゃん vol. 2-1

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第1部 Viet Nam 日誌
第2章 さあ、旅立ち そして異国へ (1)家からホーチミンまで

7月8日 火曜日  晴れ 東京

3:30。目覚まし時計がいつものように鳴る。
 「ぴぴっ、ぴぴっ」
なんだ、もう朝か。うーーん。それにしても、眠い。外はまだ真っ暗。それに、昨日あんなに何度も持ち物をチェックしたんだ。もうちょっとくらい寝てもいいだろう。目覚まし時計を3時45分にセットしなおして、もう1度浅い眠りにつく。人間、いくら興奮してても、寝起きで外が暗いと、なかなか行動する気になれないものなんだなあ、とつくづく感じた。
 3時45分になる2分前。旅行に連れていく世界時計(小さな携帯用の目覚まし時計)が鳴った。こっちの目覚ましの音は、いつものとは違う音だ。それは、なんだか泊まり勤務の明けの朝を連想させる音でもあった。 そう朝が来た。出発の朝が来たのだ。

 まず、ぼくのすることは、大学の友人に手紙を書くことだった。実は、ある友人から「子どもの家」に持っていくはずのクスリを送ってもらえるはずだったのだが、届かぬまま、今日の日を迎えてしまったのだ。それに関するFaxが、夜中に届いていたのだが、ぼくはすっかり眠ってしまっていて気付かなかったのだ。早朝のFaxはちょっと気がひけた。おにぎりを食べながら、いそいそと手紙を書く。そして、旅の準備を整えていく。 昨日でほとんど準備はできているはずなのに、やっぱり不安だ。しかし、外はじわじわと、まるでその不安をかき消すかのように、明るくなってきた。 すべての荷物をチェックし、戸締まりもした。家の鍵だって、ちゃんと2個家の外の隠し場所に隠した。

 4:33。
 「バタン」と家の扉を閉める。 空は青い。それでもやっぱり不安だ。でも、もう、後戻りはできないんだ。 それにしても、なんなんだろう。この不安な気持ちは。いったいどこから来るのだろうか。当たり前のことだが、毎朝、会社に出勤するときの朝とは、まったく異質の、これまでに体験したことのないような朝だった。 家を離れてから、数歩。まず、最初のアクシデントが起こった。 おにぎりを食べながら書いた、友人への手紙が、突然、ぼくの手を放れ、「ふわり」宙に舞った。

「あっ」

 路上に舞う、一通の手紙。「しまった!」とすぐ拾いはしたものの、なんだかすごく不吉な出発だ。なんとなく、この手紙は早いとこ投函した方がよさそうだ。なんとなく。 家から歩いてたった15分くらいの京王線・調布駅までの道のり、何か「忘れたんじゃないか、忘れたんじゃないか」と不安でたまらない。 数歩、歩いては、荷物を確かめ、また、数歩。こんなとき、リュックに付けた南京錠はとてもやっかいだ。カバンの中を調べるのに、めんどくさい。まあ、荷物を盗られるのを防ぐためだから、仕方ないのだが。 でも、どうやら、忘れものはなさそう。そう、もしあれば、現地で買えばいいんだ。そう、自分に言い聞かせた。それにしても、この不吉な手紙をなんとかして、早く投函したい。しかしこんなときにかぎって、なかなか郵便ポストは見つからない。「会いたいときに、あなたはいない」とは、よく言ったものだ。
 4:45。調布駅北口にて、ようやくポスト発見。そして、すぐ投函。新宿までのキップを買って、駅構内へ。たかだか、調布駅までの道のりを、こんなに長く感じたのは初めてのことだった。 駅のベンチに腰を掛け、家を出て、初めて一息ついた。 いままでに見たことがないくらい、調布の空が青かった。風を、肌で感じることかできた。いつ以来だろうか、こんなに気持ちのいい朝は。もう、ここに来るだけでも、旅だった。そりゃそうだ。朝の5時に調布駅に来たことなんていままでなかったんだから。 そんなぼくのこころのなかを、いろんな思いが掛け巡った。 ふと考えると、毎朝聞いてるJ−WAVEの、ジョン・カビラ氏の声がなつかしかった。あの、お叫びもしばらく聴くことができないんだなあ。そう思うと、とても寂しかった。 しばらく、話し相手もいない。これからは、さみしくなったら、ぼくが話し相手を探さないと…。 旅の朝、独りになったことを、少しだけ感じた。

 朝、早く起きると、1日はほんとうに永い。京王線とJRを乗り継ぎ、浜松町へ。さらに乗り継いでモノレールで羽田空港まで。空港、国内線カウンターについたには、6:45。なかなかいい時間だ。チェックインをなんなく済ませ、空港ロビーでしばし時間をつぶす。その間、売店で新聞を買う。それを読みながら、NHKの朝のニュースを見ている間に搭乗手続きが始まった。 いそいそと、そして、飛行機に乗り慣れているふりをしながら機内へ。座席はほとんど、いちばん後ろ。だがしかし、窓際(やったー)。しかし、ぼくの格好はというと…。
 腰にはウエストポーチ。首からは、カメラ。そして、Tシャツに半ズボン。もう、これは、何か勘違いをしている「観光客」以外の何者でもなかった。でも、それが独り旅のいいとこ。もし、友だちと一緒にいたら、ぼくは、絶対こんな格好はしてない。なぜならすごくかっこ悪いから。まあ、いいや。「なんとかの恥はかきすて」とか言うからね。あ、それと、羽田での情報では、関空は雨だそうな。ほんとかなあ。 これまでのところ、旅はいたって順調。しかし、ウエストポーチの南京錠は、いつも、キラキラとあやしげにぼくを見つめている。
 あ、そろそろ飛行機が動きだしますね。

あっ、動いた。ああ、しかも、バックで。

 今、8:20。静岡の上くらいを飛んでるはずです。いやー、でも、飛行機って離陸するとき、あんまり気持ちのいいもんじゃないですよね。ぼくは、久しぶりの飛行機だったんですが、あの、なんともいえない感触。そう、"ふわっ"とする感じ。そして、飛行中(あっ今も)、ふらふらと揺れる感じ。「おい、なんでまっすぐ飛んでんのに揺れるねん」と思わずどなりたくなる感じ。そう、飛行機に乗ったのは、去年3月にハワイに行ったとき以来。でも、あんときは、友だちが3人もいて、ワイワイ、ガヤガヤ。騒ぎがいもあったのに。今は独り。独りでぎゃあぎゃあ騒ぐと、ただのへんな人になってしまう。だから、騒ぎたくても、騒げない。そして、正直な話、ちょっとこわい。飛行機に乗り慣れているふりしてて、結構どきどきしてる。でも、となりの人にそんなこと言えない。 まだこれから、こんな想いを最低4回もしなければならないと思うと、結構気が重い。しかも、この飛行機、JALだからまだいいけど、あとの4回のうち、3回がなんと
「VN」。
 おい、ほんとにおまえ大丈夫なの? ぼくを乗せてるときは、絶対に落ちるなよ! たのむから。まあ、落ちるにしても、国際線ならまだしも、ホーチミン→フエ間なんかだったら、ニュースにもならなかったりして。トホホ。まあまあ、この先どうなることやら。旅はまだまだ、始まったばかりなんだから。 それにしても、これだけいろんなことがあって、時間はまだ8:30。いつもの朝なら、まだ通勤電車のなか。笹塚駅くらいでまだ会社にも着いてない。いや、ちょっと信じられない。まあ、起きた時間が強烈に早かったからなんだろうが。「早起きは3文の得」とは、ほんとによくいったもんだ。やっぱり偉かったんだね。昔の人は。 それにしても、JALはサービスがいい。ちょっと揺れただけで「ぷうぉん」ってベルトのサインがつく。ホノルルへいったときのユナイテッドなんて、まず、そんなことなかった。ベルトのランプがつく前のこっちが目をさましたくらいだ。 高い金だすだけの価値、あんのかなあ。

  と思ってたら…

速報  これから先、揺れるとのこと。そうこうしてるうちに、なんとなく揺れてきた。それでも、ユナイテッドのときよりまし。
 もうすぐ、関空。
 機内のInformationの通り、関西空港は雨だった。昨日のニュースでも、西日本は大雨だった。やっぱり、日本は梅雨だったんだ。あんな、バカ暑くて、のー天気なのは、関東だけだったんだ。改めて実感。
 
そして、関空に到着。 関空はきれい(あたりまえだ。できたばっかしなんだから)。そして、関空は広い(あたりまえだ、国際空港なんだから)。そして、成田よりも、圧倒的にいいことは、わかりやすいとこだ。 成田のときは、初めての海外旅行だったからかもしれないが、やたらややっこしかったという記憶がある。でも、今回はいたってスムーズ。それにしても、成田はひどい。だいいち、空港が都心から 遠すぎるんだ。 なんなんだ、あの遠さは。ぼくは今回、成田まで行かなくてすむと知っただけで、ずいぶん"ほっ"とした。ほんと、羽田は近くていい(もちろん、成田に比べれば、だけど)。 だけど、なんでまたあんなとこに国際空港なんかつくったんだろう。ぼくには、まったく理解できない。まあ、当時の技術で海上空港とかは、難しかったのかもしれない。でも、だからって、あんな山奥につくる必要なんか絶対ない。米軍にお願いして、横田基地ととりかえてもらったほうが絶対いい。
 とにかく、成田は嫌いだ。
 なんで、成田なんかに空港が…。

 そんな、成田空港の悪口はさておき、ゆっくり2時間くらい関空見物でもしようと思ってたんだが、国内線の遅れ(といっても15分くらい)とめんどくささ(というのは建て前で、ほんとは不安だった)から、ええい、早いとこ出国してしまおう、と、フライトの2時間も前に出国してしまった。 まあ、出国したところでなにがあるわけではなかったんだが、まあ、なにごとも、早め早めにこしたことはないだろう、ということで。 関空のイミグレ(イミグレーション。空港の出入国管理ゲート)の先には、デュティーフリーとちょろっとした、しかも、街中より相当高い値段で食べ物や飲物を売ってる、売店があるだけだった。ぼくはそこで「南アルプス天然水」を、200円もだして買った。ああ、めちゃめちゃ損した気分だ。 そう、しかも、空港使用料に2650円もとられた。トホホ。

 売店の前にいても仕方ないので、そそくさとゲートへ。ぼくの乗る飛行機は「VN941」便。ゲートは46番だ。 関空はイミグレや売店のあるビルから、ゲートのある別のビルまで、なんと、「ゆりかもめ」みたいな乗り物に乗っていくのだ。でも、ちょっと走っただけでそのビルというか、駅みたいなとこについた。 46番ゲートの前は、時間も早いとあってガラガラ。ああ、なんとなくさみしい。でも、この光景を見て、「ああぼくは、ヴェトナムへ行くんだなあ」と実感した。 そう、ガイドブックには、おもしろそうなことや、楽しそうなことがいっぱい書いてあるが、実際は、まだまだ発展途上中の、衛生状態もよくない、なんだかあやしい国に行くだけなんだ。 まあ、ゲートがガラガラなのはいい、が、しかし。ぼくが、ゲートの外を見てまず、目が点になったのは、46番ゲートにつながっていた飛行機の機体を目にした瞬間のことだった。

え、いやいや。それって、冗談でしょ。

  なんだ、このヒコーキ!

 まっしろじゃないか!

 実はぼくは、このヒコーキはダミーの貨物機かなんかで、フライト直前に「いやあ、ごめんごめん」的に別のすごくカラフルで、なんだか見てるだけて楽しい気分になりそうな、そう、そんな飛行機がやってくると、信じて疑わなかった。しかし、その「ほわいてぃ」(便宜上、こういう名前にしました)はぼくの期待を見事に裏切り、ついにぼくたちが搭乗するまで、46番ゲートの前を離れようとはしなかった。
 
 ねえ、ちょっと、それって、うそでしょ。こうやって見てても、飛んでく飛行機みんな、なんか"リゾッチャ"みたいですごく、ハデハデじゃない。となりにとまってるタイ航空だって、ほら、あんなにハデで楽しそう。 そういえば、あほやん(すごいあほな会社の友だち)が友人の話として、「ヴェトナムに行ったあと、バンコクに行ったら、そこが桃源郷に見えた」って言ってた。その意味がなんとなくわかったような気がした。
 とにかく、ぼくは、ほわいてぃに飲み込まれることになった。

 ああ、ぼくのを乗せたほわいてぃの横を、真っ青な大韓航空が飛んでった。 ぼくはいままで、飛行機の機体の塗装なんて、特に意味があるものだなんて、思ってなかった。そんなの、ハデであろうが、地味であろうが、ミッキーマウスだろうが、キティちゃんだろうが、関係ないと思ってた。
 でも、今は違う。とにかく、何か書くなり、塗るなりしといたほうが絶対にいい。少なくとも、乗る人に対する精神的効果だ絶大だ。
 だって、なにも書いてない、真っ白な機体だったら、もし、万が一落っこちたとき、まあ仮に海なんかに(これから飛び立つのにこんなこと書くのいやなんだけど)、上から見おろして、

「まあ、まっ白だから、いいや」

と思われたりするんじゃないかなあ。
 まあ、結局のとこ、どっちでもいいんだけど。

 そんなホワイティの機内は、外見と違い、けっこう明るかった。そりゃそうだろう。外がまっ白で、中までまっ白だったら、そりゃ、まるで病院じゃないか(いやあ、縁起でもない)。
 フライトアテンダントの人たちは、みんなピンクのアオザイを着てる。うん、たしかにきれいだ。ああ、これがアオザイなんだ。シートやシートカバーもそれに合わせたようなピンクっぽい色。ただし、JALに比べ、結構ぼろぼろ(ゴメン)。
 あ、そうそう、1つ安心したことは、このほわいてぃ、JALとVNの共同運行とのこと。つまり、JALのチケットを買ったやつもこのほわいてぃにのみこまれているということになる。なんとなく(というかすごく)うれしい。
 機内でさっそく読み物を配りにきたので、迷わず、現地語のものを。と、ぼくが手にしたのは「Viet Nam News」という新聞。なんだ、結構わかるわかる、と思って(もちろん、そんなにわかってない)読みながら、途中で気づいた。なんだ、これ、英字新聞じゃないか!英語とヴェトナム語の区別もついてなくて、大丈夫なのかなあ。あと、5時間くらいでヴェトナムに着くのに。
 そうこうしてるうちに、ベルトとか、酸素マスクの説明が始まった。よく考えてみてば、これが、ぼくが初めて耳にするヴェトナム語だった。しかし、なにを言っているのか、まったく理解不能。知ってる単語すら出てこない(というかない)。もう、ほとんどおまじない状態。でもなんだかわけがわからなさすぎて、逆に、落っこちたら、このおまじないで天国に行けそうな、なんだかそんな感じ。
 ただ今、正午。
 ああ、ほわいてぃが動きだした。
  がんばれ!ホーチミン・シティまで。

現地時間、15:00。
 どうやら、インドシナ半島の上空まできた。まもなく、ホーチミン・シティだ。あんまり、天気はよくなさそう。雲がずいぶんでてる。飛行機の窓からながめたヴェトナムは、いったいどこまでだ、ヴェトナムでどこからがよその国なのかわからなかった。そう、国境なんて、人間が勝手に決めたものなのだ。 でも、みどりが多い。そして、ぽつぽつと家らしきものがある。ほわいてぃが除々に高度を下げていく。くねくねとくねった河が見える。窓ガラスを雨つぶがぬらす。やはり雨だ。どしゃぶりだったらどうしよう。不安だ。でも、ヴェトナムの大地は、もうぼくのすぐ目の前にある。いったいどの辺を飛んでいるのか、さっぱり検討がつかない。下にはなにか、ゴルフ場のようなものも見える。ああ、初めて動く車が見えた。そういえば、インドシナ上空では動く車のようなものはまったく見えなかった。見えるのは、くねくね河とぽつぽつ家ばかり。ああ、いま幹線道路らしきものの上空にきた。

 そして、眼下にはヴェトナムの河が広がっていた。いくつもの河がくねくねと流れていた。河の水はまっ茶っ茶。コーヒー牛乳の河みたいだ。でも、この様子じゃ、空港で雨は避けられそうにない。
 すぐ、やんでくれればいいのだが…。

 あ、見えた!あれがホーチミン・シティだ。
 いよいよ着陸。ヴェトナム。そしてホーチミン・シティだ。

 15:30。タンソンニャット国際空港へと着陸。このほわいてぃが飛び立ったのは、完成して間もない関西国際空港だった。そして、この、国際空港はというと…。ほとんど牧場状態だった。大丈夫なのかなあ…。


第二章 その2へ続く
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